滋賀/レイクスファーム/辻 清子さん、久美子さん

琵琶湖からほど近い野洲川近郊で育つ、農薬や除草剤不使用の安全安心な旬の野菜。セトレ マリーナびわ湖では、開業当時からレイクスファームの野菜をレストランで提供しています。また、シェフやスタッフが直接農地を訪れ、季節の農業体験をさせてもらったり、採れたて野菜をその場で料理したりと、交流も重ねてきました。少量多品目の野菜を一つひとつ愛情込めて作られている、辻さんの農地を訪れました。

お母さんが丹精込めて育てる
少量多品目の野菜

太陽の日差しできらきらと煌めく琵琶湖がすぐそばに見えるレイクスファームの農地は、肥沃な農耕地帯の一帯にあります。琵琶湖のさらに向こう側には、比叡山や比良山の山々が連なり、上空にはトンビの鳴き声が聞こえる穏やかな土地。農業帽子をかぶりせっせと野菜作りに勤しんでいる辻清子さんの元へ向かいました。

「向こうのが日野菜。その奥が津軽紅だね。掘ってみようか?中身も真っ赤なんだよ」

そういって掘り出してくれたのは、滋賀の伝統野菜でかぶの一種である日野菜と、津軽紅。水で土を洗い除いていくと、みるみるうちに鮮かなルビーのような紅色が顔を出します。なんと自然の色の美しいこと。「これをね、漬物にすると美味しいんだよ」とにこにこした笑みで教えてくれる清子さん。

次にもうすぐ収穫時期になるというごぼうの初堀りをしてくれました。土を掘ったあと試しにスタッフが挑戦してみるも、びくともしません。清子さんが腰を落としてグイグイひっぱると長いごぼうが出現。とても72歳にはみえない、清子さんの凄さに一同驚かされます。

「やっぱりね、寒さが来ないと美味しさが出ない。一面霜がおりると、ネギももっと甘みが増すし、太さももっとでてくる。とろんとして美味しいのよね」

11月末の取材時には、ほかに太ネギや下仁田ネギ、人参、長芋、大根、ビニールハウスでは、ニンニクやそら豆、とうもろこし、サニーレタスなどを育てています。さまざまな旬の野菜を、清子さんはパートスタッフと基本2人だけで作っているといいます。

レイクスファームでは、農薬や除草剤を使わないために、少量多品目の野菜づくりを行なっています。

「常に草と虫との戦いですよ。レタスは2年連続でダメになってしまったし。うまくいかない時もあるけれど、それでも農薬はなるべく使いたくないのよね」

さらに、清子さんは、栽培だけでなく、赤かぶ漬けや日野菜甘酢漬け、小松菜糠漬などの加工品も作っており、全て無添加の手作りです。

野菜、米、ブルーベリー
家族一体で農と向き合う

「主人が担っているお米の生産がレイクスファームの大きな柱で、規模も大きいです。義母が野菜の栽培と加工品の漬物を作り、私はブルーベリー栽培を担当しています。縦割りなんですよ」。

そう案内してくれたのは、辻久美子さん。清子さんの息子 市太郎さんの妻で、辻家は家族で農業を営んでいます。「お義母さーん!」と呼びかけ、清子さんと掛け合いする姿は、まるで親子そのもの。

久美子さんは埼玉出身で、関東でご主人の市太郎さんと出会い結婚。子育てに専念していましたが、ブルーベリーの防鳥ネットが大雪の影響で倒壊してしまい、そのままではもったいないと見かねて京都の叔母さまと剪定をはじめたことがきっかけで栽培を担うことに。栽培したブルーベリーでジャムも作っています。さらに久美子さんは、レイクスファームの営業や広報、総務、配達なども担っていて、常に大忙し。

「ブルーベリーを育てる面白さは、子供と同じで、手をかけたらちゃんと答えてくれるところですね。気候でダメになるときもあるけど、愛情かければかけるほど、植物は静かに答えてくれる。ブルーベリーは夏の収穫だけど、もう12月から剪定を始めます。作業をもっとしたいけど、用事も多いですね」

苦労も重ねてきた家族の歴史
喜ばれることで報われてきた

「ここに嫁いだ時は、電話番だけすればいいって言われたのよ」。

そう笑う清子さん。奈良漬加工業を営んでいた辻家は、その後メロンの栽培と摘果メロンを奈良漬にする商品開発を行い、そのノウハウは地域にも広がりました。そんな最中、清子さんのご主人 日良沿さんが1995年に50歳の若さで急死。市太郎さんが帰郷し就農、清子さんと家業を支えました。

「当時は必死でしたよ。メロンづくりも大変でね。そんな時に2017年に台風21号がきて、ビニールハウスが倒壊してしまって。それで区切りをつけて、多品目の野菜づくりに切り替えたの」

清子さんは野菜、市太郎さんは米や麦、大豆にも栽培を広げ、久美子さんはブルーベリーを栽培。一家で力を合わせ、周りの人たちにも支えてもらいながらここまできました。レイクスファームの野菜は、産直の有機野菜や自然食品を宅配する、選りすぐりの野菜にも選ばれ卸してもいます。

「お子さんが、辻さんの野菜だったら食べられるようになったとか。そういう声を聞くと励みになりますね」

そう清子さんが話す横で、「私もね、嫁いだとき農業は手伝わないという約束だったんだけど」と笑う久美子さん。苦労もともに乗り越え協力し合いながら、愛情を注いだ食材をお客様に届けていることが伝わってきます。

豊かなこの大地を
人々の健康や癒しにもつなげていきたい

久美子さんは、「しが農業女子100人プロジェクト」という滋賀で農業に営む女性のネットワークの副代表も務めています。

「新規就農の方が困らないように教えたり、インターンシップの受け入れをしたり、駆け込み寺のような存在ですね。アグリセミナーをしていると、滋賀の農業に興味がある方がたくさん来てくれます。団体にしたことで思わぬ広がりもあるし、それだけ注目してもらえるんだとすごく刺激になります」

21名の正会員に広がり今年3年目になる活動は、組織になったことで、個人では成し得なかったさまざまな活動へと広がっています。

「メンバーも若い人から高齢まで幅広いんですよ。横のつながりもできるし、みんな頑張っているんだなあと励みになります。愚痴も言い合ったりして、またがんばろうって、気分転換にもなりますしね」

さらに、久美子さんには、今後挑戦していきたいビジョンがあります。

「さっきみなさんがごぼうを掘って歓声をあげたみたいに、農業は作って売るだけではなく、人に楽しみや癒しも与えられると思うんです。その価値をもっともっと増やして、みなさんに届けていきたいと思っています」

久美子さんが注目する「アグリセラピー」には、“土”の力が要だといいます。

「農福連携の『アグリセラピー』という、自然栽培の土に関わることで、心身ともに健康になる活動をここでもしたいと構想しています。やっぱりお義母さんがあんなに元気なのは、土の力があるからなんですよね。アスファルトじゃだめ。土からエネルギーをもらって、このエネルギーを吸ってほしい、触ってほしいという思いがすごくあります。この土地にきて体感してもらうような、将来的にそういう活動ができたらいいなと思っています」

久美子さん自身、埼玉からこの土地に移り、自然の力や豊かさを実感してきました。外の視点を持ち合わせているからこそ、もっと多くの人に感じてほしい、楽しんでほしいと、この土地に新しい価値を見出しています。

野菜やお米に想いをのせて、大自然に抱かれるこの土地で。暑い日も寒い日も、辻一家の心の込もった食材づくりは続きます。