セトレマリーナびわ湖では、家具やツールに滋賀県産材の木材を多く使っています。朝食で使用する木箱やチェックイン時にお客様にお渡しするアロマ木など、木のぬくもりを感じていただいています。それらの制作には、「びわ湖の森を守る」をテーマに、地域材の活用などに取り組む一般社団法人kikitoが重要な役割を担っています。滋賀県東近江市で活動するkikito代表理事、大林恵子さんのもとを訪れました。

森に関する幅広い活動に取り組むkikito

kikitoの事務所に伺うと、代表の大林さんがまず初めに見せてくれたのが、手すき和紙で作られたポチ袋です。

「この手すき和紙のポチ袋は障がいのある方が作られていて、色彩感覚が抜群なんです。相談を受けて、kikitoでは、どう販売するかのアドバイスや売り先のご紹介をさせていただいています。どうPRして販売したらよいかわからない作り手さんが大勢いますが、作り手と求めている人をつなぐ役割がいれば、購入につながるんです。私たちはその役割を担っています」

kikitoは、滋賀県湖東地域の「びわ湖の森」を元気にしたいという気持ちから、森や木材に関わるさまざまな取り組みを行なっています。その活動は、先ほどのポチ袋や名刺入れなどの、木や紙物の企画提案やデザイン、企業のノベルティ制作、木材の買取、地域の木材調達の紹介など実に多岐に渡ります。

はじまりは、県職員の担当者が呼びかけて行われた東近江市の山について考える機会でした。40人ほどが集まり意見交換を重ね、「せっかくここまできたなら甲子園目指したいよね」というメンバーが2016年に一般社団法人kikitoを設立しました。

「当初は協議会でしたが、責任ある団体になるため法人を設立しました。現在は、理事・社員含めて9名です。地域や環境を考えて思うことややりたいことはメンバーによって異なるので、各々が本業と両立しながら活動しています」

大林さんも本業は森林整備を行う企業の取締役。kikitoの活動を聞いて驚かされたことの一つが、助成金に頼らず活動を行なっていることでした。

「補助金をもらわず事業を継続していることは、自分たちでも頑張っているなと思います。メンバーみんな二足のわらじで本業があるから無駄な時間がないんです。やりたいことのためなら時間が作れますけど、助成金を受けるための事務的な手続きなどを考えると自走できるほうがよいと考えています」

ペットボトルよりも安い丸太の現状

kikitoの基幹事業は、製紙事業紙の制作・販売です。鹿の被害に遭うなどして建築用材にならない材を一般の市場価格より少し高めに買い取り、チップにしたものを製紙メーカーで紙にして販売。そして、利益をまた材の買い取りに回すサイクルを10年継続しています。紙の制作は、一般社団法人木になる紙ネットワークとともに行なっています。

「間伐材の買取事業がkikitoの基幹事業だと考えています。紙が作りたかったのではなく、市場価格より高く買い取った間伐材をどうお金に変えるかの答えが『紙』でした。紙なら多少曲がっていたり皮が剥けていたりする木材でも問題なく作れますから」

日本の森は、戦後、国土復興のため、建材や国土緑化のために豊かな日本を取り戻そうと国策で木を植えられました。しかし生活様式の変化や国産材を守るため関税で外材を輸入した経緯から現在は国産材が全く動かない時代に。

「今の山の状況って元気ではないんです。林業は生業なのに、生業として成り立たなくなって、放置林が増えてしまった。その結果、豪雨になると大きな被害をもたらすこともあります。でも丸太って、同じサイズのペットボトルより安いんです。山主さんが手入れを出来なくなる気持ちも判りますよね。

山主さんが山の手入れをするのが理想でも、現実は難しい。その中でkikitoは少しでも高く材を買い取るために通常よりも倍の価格を提示し、多くがその半分が補助金や地域通貨で支払われる中、現金で払うことが一番喜ばれると現金での支払いを徹底しています。

「邪魔な財産とも思われている山の手入れができて、山主さんに少しでもお金を手にしていただけることで気が楽になっていただけるかなという思いで続けています」

山主さんの姿勢に心打たれ、喜ばれることが活動の源に

「木は育つのに50年、100年とかかるので、自分の人生の中では完了しないんですよ。成果が見えるのは次の代なんです」

かつて必死の思いで植えられて育てた木が、ときに邪魔になって理解されないことがある。でも山の恩恵は、川下の人間が受けていると語る大林さん。観光地も、桜や紅葉になるおかげで、地域に人が集まり商いも繁盛して、恩恵を一番受けている。一方で、その人たちが山の紅葉を助けているわけでもない、と。

「街の人、川下の人に少しでもわかっていただけたらよいなと。そうでないとおじいちゃんおばあちゃんがやるせないなと思うのですが、昔の人って、日本人の美徳なのか全くそんなこと思われていない。余計に何か私たちがお手伝いできることがないかなといつも思わされるんです」

kikitoの地道な活動を通して、山を手入れして山を守ってきた方々が喜ばれたり、コミュニケーションできることがkikitoの喜びに繋がっています。

「少しでも高く購入することで、こういう団体が頑張っていることを知ってもらいたいですね。今朝も山主さんから『今年も木材を持って行こうと思っているんやわあ、顔見たいしね』と連絡をいただいて。それでお互い『元気にしてた?一年ぶりやね』なんてコミュニケーションを取りながら山の手入れもできて。それでお金を少しですが手にしていただけるならよいなと思うんです。最近では買取の場でBBQをするなど、憩いの場も作っています」

森と人をつなぎ、未来へとつなげていく

kikitoのフィールドである東近江は、三重県との県境にあります。「でも人間が引いたラインじゃないですか。もともと鈴鹿山渓で山は繋がっていて。鈴鹿山渓は緑が豊かで、自然も本当に豊かなんです」

東近江は木の器やこけしの木地師発祥の地で、隣の日野町も日野椀という漆の文化が今も残っていて、木にまつわる地域であることがわかります。

「庶民の使う漆や木にまつわるお話がいっぱい残っている地域だなと思います。『三方よし』とともに『もったいない』のものを大事にする文化も残っているんです。東近江は、滋賀の中でも中途半端な田舎がよいところで。田舎過ぎても若い人が住みにくいですし、うまくブレンドされているところがよいところですね」

まっすぐに森と向き合い、森と地域と人をつなぎ、未来へとつないでいくkikito。木や森に関する事業では、ときに山主さんと企業とのあいだに入り、まるで翻訳者のように相互をつなぐなくてはならない存在です。これからも、50年、100年先の森や山主さんを想いながら、活動を続けていきます。