さかもと養鶏/ 阪本雅さん・未優さん

春になると桜で彩られる吉野、その入り口にあるのが五條市です。この町で生まれ育ち、養鶏場を受け継いだ姉妹がいらっしゃいます。「さかもと養鶏」の阪本雅さんと未優さんです。おふたりはお祖父さまが立ち上げた養鶏場を受け継いだ3代目。「白鳳卵(はくほうらん)」というコクと甘みがしっかりとある卵を届けています。20代という若さで養鶏場を受け継ぎ、姉妹で活動を続けるおふたりの元を訪ねお話をお伺いしました。

まずは本気で向き合ってみる。
そこからはじめてみよう。

おふたりのお祖父さまが約50年前にはじめた養鶏場。3代目として姉の雅さんが事務作業や経理、妹の未優さんが養鶏場の現場を担当しています。おふたりがつくる卵のひとつに「白鳳卵」という卵があります。黄身をお箸でつまんでもわれず、薄皮もしっかりとした丈夫な卵です。

おふたりがこの養鶏場を継ぐまでは、お父さまが2代目として切り盛りしていたのだそうです。しかし、お父さまは2015年に病死。

「もともと、養鶏場を継ぐ気はなかったんです。私はデザイナー、妹の未優は栄養士として仕事をはじめていましたから。でも父が亡くなってすごく悩みながら、いろんな可能性を考えました。祖父や父の残した養鶏場を手放していいのか。手放すにしても、その方法すらわからなかったんです。色んな人に相談していたら『道筋はある』と言ってくれた方がいて……。ここまで広げた事業をたたむにもお金はかかるし、やめるのはいつだってできる。なら、本気で養鶏に向き合ってから考えよう、まずはやってみよう。そう決意して、ふたりで養鶏を継ぐことにしました」。

そしておふたりは2016年の11月に養鶏場を法人化。さかもと養鶏株式会社として新たなスタートを切りました。

鶏にとって、
本当にいい環境って?

「特に大切にしているのが、空気・水・餌です。私たちが受け継いだ鶏舎は30年前に建てられたものでした。温暖化の影響もあって、夏場は昔より10度以上温度が高くなるんです。私たちが事業を継承したときに大きく見直したのが鶏舎の環境づくり。大きな換気扇を導入して空気を抜いて、新鮮な空気を鶏たちが吸えるように整えました」と、未優さん。

養鶏を受け継ぐことを決めてから、ひとつひとつ仕事を覚えていくうちに、これが本当に鶏にとってよいことなの?といろんな疑問が湧いたのだそうです。そこでいろんなひとに相談して、いろんな情報をあつめて、自分なりに鶏にとってよい生育を考えはじめたのだそうです。

「あとは鶏の体調管理を徹底しました。さかもと養鶏には20,000羽の鶏がいます。週に一度、700羽ずつ体重をはかるようにしています。それらを集計して餌の量を決めていくんです。体重が重くなりすぎると難産になって、軽すぎると小さい卵しか産めなくなっちゃう。だから鶏たちの体重を計測して、健康体重を維持してあげるように、徹底管理しています」。

すると、親鳥を買い取ってくださる業者さんからも鶏が変わった!と言ってもらえるようになったのだそうです。最後まで腸がきれいで、卵も残っている。空気の流れを変え、体長管理をすることでこんなにも変化があるんだと、やりはじめたことに手応えを感じるようになったそうです。

目まぐるしく
変わり続けた5年。

受け継いですぐの頃は、卸として販売していた卵がほとんどでした。

「はじめは3割ほどが個人向けの販売でした。卸だと誰が食べたのかわからないというのが正直なところ。私たちが届けるなら、想いも一緒に受け取って味わってくれる目の行き届く範囲の方々に食べてほしいと考えるようになりました。だから思い切って、個人向けの販売を強化できるように、準備をはじめました」と、雅さん。

ECサイトを整えたり、発送を効率よくできるようにレイアウトを変えたり。ぐっと個人向け販売にむけて舵を切ったところで新型コロナウィルスの拡大と、鳥インフルエンザのダブルパンチが襲いました。個人向け販売の準備をしていたことは、大きな追い風となりました。

「卸の販売はほぼなくなりましたが、準備していたおかげでいまではほぼすべて個人向けの販売になっています。一年ごとに目の前の課題が変わっていくので本当にハードです。でも、5年経ってようやくいろんな変化に成果がついてきた気がします」と、雅さん。

そういいながら見せて下ったのがお客様からのアンケートでした。びっしりと感想が書かれたはがき。「こういう声を直接いただきながら、新しいことを考えていくのが楽しいんです」と目を輝かせながら、未優さんは話してくれました。次にチャレンジしてみたいことは?とたずねてみました。

「ふたりではじめてここまでほんとうに目まぐるしい日々でした。養鶏場もやっと整って、鶏たちの状況も良くなってきて。販売もいい風が吹いています。いつか養鶏場の近くで、卵を使ったメニューを食べてもらえるような場をつくれるといいなって思っています。さらに加工品もつくって、卵と一緒に持って帰ってもらえたらいいな」と雅さん。

未優さんは「継ぐからには、自分たちが結婚したり子どもを生んでも続けていけるような仕事にしようって考えるようになりました。手伝いに来てもらっているパートさんも同じで、働きに来てもらったら楽しい気分で帰ってもらえたらいいなって思っています。私たちと養鶏に関わってくださるみなさんに、少しでもしあわせになってもらえたらうれしい」と、答えてくれました。

おふたりが祖父、そしてお父さまから受け継ぐことになった養鶏場。これからのおふたりの活動で、さかもと養鶏の輝く未来が切り開かれる。そんな様子が垣間見える訪問となりました。