滋賀>北川農園>北川圭一さん

滋賀県守山市にある北川農園は、減農園薬にこだわった安全安心の梨を栽培する果樹園です。4代目の北川圭一さんが、新たにいちごとブルーベリーの栽培を始めました。直売のいちごはSNSで広まり、遠方からも買いに来るほどの人気です。セトレマリーナびわ湖では、北川農園のいちごや梨をご提供しています。宝石のように艶々で香り高くジューシーな美味しさが魅力のいちごを栽培する園を訪れました。

美味しさのために、妥協はしない

守山市は、琵琶湖に隣接する農業がさかんな地域。田んぼが一面に広がる一角に、ビニールハウス(以下、ハウス)と直売の昇り旗が見えます。ここが、北川農園が栽培するいちご園です。「かおり野」「やよいひめ」「よつぼし」の品種を栽培しています。

取材で伺った時期は、まだ実がなる前。温室のハウスでは、少量培地耕栽培のいちごが並び、元気な葉や蕾が育っていました。案内されたかおり野のハウスを覗くと、「このハウスにはミツバチがいますから気をつけてくださいね」と北川さん。床に蜂の木箱が設置され、小さなミツバチがブンブンと飛んで白い花の蜜を吸っています。かおり野は一番早い時期に育つ品種で、12月には赤い実を付けるそう。

「業者さんから蜂を借りて受粉させています。ミツバチは、日光や紫外線を浴びて行動して、暑いと自分の体を冷ますために飛ぶんですよ」

ここでは、葉を取り除く葉かきという作業をしていました。葉が密集すると風通りが悪くなり虫が発生してしまうため、摘果することで葉が生き生きして、すっきりしてきます。脇芽が増えすぎても、実に栄養が届かず美味くなりません。

「庭先で販売して卸している強みを活かすため、余分なものは取り除きます。直売にこだわるからこそ、摘果が一番大事なんです。実が大きくなり、味も良くなるためには、この一手間で違いがでます」

また、植物が育つために必要な、光、水、空気が常に新鮮になるよう工夫しています。

「水は土の真ん中に触ってもらうと、たぷんとしたチューブがあるでしょう。水と肥料を混ぜたものが自動で流れます。酸素は、ビニールハウスの横を開けて新鮮な空気を常に入れるようにします。雨や寒くて開けられない日にも綺麗な空気を入れるために必ず2〜3回は換気します」

減農薬のため、土作りからこだわる

「売ることも大事だけど、こだわった栽培方法を勉強するのが一番大事」そう話す北川さん。

他の農園とどういう違いを作ったらよいか、試行錯誤を続けてきました。

もともと梨を栽培する父、作治さんが安心安全の梨づくりのために土からこだわり有機肥料のみを使用してきました。圭一さん自身も、減農薬をめざして土の中でどれだけこだわれるか追求し、いちごが免疫力を高める菌が入った土を土作りから行なってきました。蟹殻や腐敗した木など自然のもの加えた肥料なども試しています。また、栽培が終わった後の太陽光消毒や、地温を一定にするための保湿力や保温力を保つために、水をすぐに蒸発させないなど、あらゆる工夫に驚かされます。

また、いちごは収穫期間が半年と長く、周辺が田んぼの環境も影響してハダニやアブラムシが湧いてしまうことがあります。それでも農薬をなるべく使用せず、土で免疫力を上げるほか、悪いハダニを食べるよいダニを放つ天敵農薬を実践しています。一つのハウスでは、いちごの苗が植わっているところどころに、白いパックが置いてありました。

「このパックに、ハダニを食べてくれるよいダニが入っています。パーっと出てきて、ハダニを食べてくれる代わりに、これを入れると使える農薬がすごく限られるんです。殺したらいけないので。農薬を使う時は細心の注意を払っています」

減農薬にこだわるのは、父の影響に加えて、自身の体質も背景にありました。

「自分もアトピーやアレルギー鼻炎などのアレルギー体質だったんです。一番こだわり始めてよかったと思うのは、お客さまに『アレルギー体質の娘が、北川さんのいちごは農薬の違いがわかって食べてくれる』と言われたことですね。それから本当に頑張らないとあかんなと。苗の段階からステップを踏んでいかないといけないなと痛感しましたね」

北川さんは、苗を作る育苗も行い、さらに、管理のため過去5年間の肥料の濃度や天候によって変化する水量なども細かく数値化して見える化しています。「数字は嘘つかないですから。初めのうちからデータを取っていたので、状態がわかりますし数値をみて実証しています」。

「植物は二酸化炭素を吸って酸素吐き出すじゃないですか。午前10時頃までが一番植物が頑張らないといけない時間なんです。僕は朝6時にきて、保温のためにだるまストーブを焚いて一気に二酸化炭素濃度を高めます。それで植物が光合成しやすい環境を作るんです。すごく大事な作業で、これで旨味が変わります」

細かな作業によっていちごの美味しさが生み出されています。そこに妥協は一切ありません。

農業はダイレクトに返ってくるから面白い

いちごは今年で6作目。もともとJAに勤務していた北川さんは、実家の果樹園を継ぐ気はなかったと言います。「4兄弟の長男ですけど、一番手伝ってなかったですね」。それが転機となったのが、転職活動を考えていた頃に父が体調を崩し、梨園の手伝いをした時。やっぱり面白いなと思い、自分が引き継ぐのもありかなと思います。もう一つ、農業をするきっかけになった理由に、尊敬する農家さんとの出会いがありました。

「尊敬する農家さんを見ていたら、やっぱりこの人すごいなと。レイクスファームさんなどJA時代から尊敬していた農家さんの影響も受けて、こういう人になりたいなという思いがありました」

また、JAの職員や市場の担当者など、JA時代のつながりが農業を始めたことでアドバイスをもらえたり相談できたりと、北川さんの強みになっています。

新規就農制度を利用せずに、親元就農でここまで広がった北川農園には、度々就農希望者が見学しにきます。北川さんはその際に伝えていることがありました。

「家継ぎます、という人には、絶対自分で部門作らないといけないよと伝えています。自分も梨園では父がいる手前甘えるんです。揉めることもなくなりましたし、自分で部門を持つことで、責任感や自覚もできましたから」

話を聞いていると伝わってくる北川さんの自信と、チャレンジ精神。自身のあり方まで変化したのには、農業にどのような魅力があったのでしょうか。

「自分がやったことが結果になって帰ってくることが、サラリーマンと違うなと。全て自分にダイレクトに返ってきますから。北川農園の4代目として、ひいじいちゃんの代から専業農家でやってきていて、こんなのしか作れんのと思われるのも嫌でしたしね。僕負けず嫌いなんで」

顔の見える、信頼できる人にいちごを届けたい

いちごは卸しと直売のみで販売し、販路は自ら開拓してきました。信頼する農家さんからの紹介も大きかったと言います。

「ずっと思っているのが、出会いも大切だし、縁も大切。人の紹介で販路も獲得してきて、ほぼ3年で売り先が決まりました。直売のお客様はほとんどがSNSを通じてきてくれます。卸先は自分で選べる状況だからこそ、顔の見える信頼できる人だけにしか卸したくないと、強く思いますね」

負けず嫌いで、だからこそ言い訳せずに試行錯誤しながら美味しいいちごを作るために誰よりも追求してきた北川さん。これから挑戦したいことを尋ねると、意外な返事が返ってきました。

「来年は漁業にも挑戦したいと思っているんです。守山の農業漁業をともに元気にしていきたいなと思っています」。

また、実家にイチゴや梨の自動販売機を設置し、地元に還元したい。さらに、大学まで続けた野球界への恩返しをしたいと、野望は尽きません。最後に、自信のみなぎる笑顔で、こう話してくれました。

「常に楽しくいたいんです。農業って、汚い、大変というイメージないですか。僕みてそんなこと感じないでしょう?大学とかまで野球やっていたのもあるし、しんどいときこそ楽しくいたい、楽しみたいんです。代表の僕がイライラしていたら伝わるし、笑顔の絶えない農園でありたい!と心がけています。お客さんとも友人のように話していますし、井入農園さんなど仲間の農家達と農業のしんどい汚いイメージを払拭して、新しい農業の構図を作っていきたいですね」