淡路島/大造畜産/椚座大造さん

ホテルセトレ神戸・舞子のレストランで味わえる、淡路島で育った「淡路椚座(くぬぎざ)牛」。昨年販売し好評いただいているセトレオリジナルカレー「椚座牛のごろっと牛すじスパイスカレー」にも使用しています。きめ細かなサシ(霜降り)と肉質がよく味に深みのある赤身、脂質の口溶けの良さが特徴です。淡路椚座牛は、餌や肥育環境にとことんこだわり、愛情たっぷり注がれ一頭一頭大切に育てられています。淡路椚座牛を唯一無二の淡路島特産ブランド牛へと育て上げる大造畜産の椚座大造さんにお話を伺いに、淡路島にある牛舎を訪れました。

愛情注がれて、清潔な環境でのびのびと育つ
懐っこい淡路椚座牛

淡路島の中間部に位置する淡路市。真っ青で透き通った瀬戸内海沿いに車を走らせ、丘の方へ入ると、自然豊かな玉ねぎ畑と田園風景が見渡せます。海へ丘へと、見える景色が変わるのも淡路島の魅力の一つ。さらに高台へ登ると、大きな牛舎が見えてきまました。ここで育てられているのが、椚座大造さんが育てる淡路島特産ブランド牛「淡路椚座牛」です。生産から販売まで直結した牧場直営をしています。

取材班が牛舎に近づくと、興味津々の様子で柵の目の前までぐいぐいと寄ってくる牛たち。大きな瞳と短い角、くるんとした前髪、艶やかな黒い毛並みが印象的です。

「うちの牛は女の子ばかりなんです。まつ毛が長くてね。むっちゃ可愛いでしょう」

牛たちを見ながらそう話す大造さん。淡路椚座牛は、子どもを産んでいない牝牛の黒毛和種のみ。8ヶ月の子牛から月齢28ヶ月になるまで約2年弱、肥育して出荷しています。カメラマンが自然体の牛の姿を撮影しようとするも、牛たちは目線を合わせ近づいてきます。どの牛も声を荒げて鳴くこともなく、穏やかで、人懐っこい印象です。

「普通、ストレスのある牛だと人がきたら逃げるんだけど。うちの牛は寄ってくるんだよ」

さらに驚かされたのは、牛舎独特の匂いがしません。常備餌が置かれていても、篭った匂いもなく、徹底した衛生管理が伺えます。牛が心地よい環境で過ごせるように、1日6回掃除を行い、清潔を保つことで牛はのびのびと過ごすことができています。大造さんの牛に向ける眼差しはとても暖かく、愛情を持って育てていることがひしひしと伝わってきます。

淡路の自然の恵みで育った米、稲わらを飼料に。
徹底した肥育環境へのこだわり

「うちの牛は、3段階ステージがあります。人に例えると、小中学校が第1ステージ、高校・大学が第2ステージ、第3ステージが成人になったくらい。ステージによって餌や育て方を変えています」

質がよく美味しい淡路椚座牛に育てるため、大造畜産では、餌や肥育環境に徹底的にこだわっています。給餌する餌は、一般的にはメーカーの餌を購入しますが、大造畜産では淡路島の風土で育ったお米や稲わらのほか、トウモロコシ、大豆など、一品一品大造さん自ら厳選した素材を仕入れ、自社工場で約15種類をブレンドしています。

「うちは餌へのこだわりが全然違うから。米や稲わらは淡路島の契約農家さんから仕入れていて、収穫の現場にもいきます。最近取り入れたのきのこの菌床は、先週富山までトラックで仕入れに行って。菌床は牛の整腸作用を高めて免疫力も高めてくれるんだよ」

見上げるほど積み重なる稲わらには、米も付いていて栄養価も高まります。発酵させた飼料を与える時期もあり、牛の成長に合わせて給餌しています。それぞれの素材の品質も、直接大造さんが現場を訪れて確認するほどの徹底ぶり。もう一つのこだわりは、牛にストレスのない肥育環境です。

「ここでは200頭肥育しているのだけど、牛の月齢ごとに、7頭ずつ間切りしています。牛にストレスを与えないよう、窮屈にならないようなスペースを確保して、いつでも餌がある状態にします。満腹中枢が働いてストレスが減るよう、餌を常備しているんです。弱い牛も栄養価のある餌が食べられるよう工夫もしますね」

牛の状態をチェックするための夜の見回りも欠かしません。淡路島の大自然のもと、常に一頭一頭の牛の状態を観察しながら、徹底した肥育環境で大切に育て上げています。

「淡路島のお兄ちゃんが育てたお肉が美味しい」
と言われたい。淡路椚座牛のはじまり。

大造さんが牛飼いになったのは20歳。もともと家業が肥育牧場で「餌やりは幼稚園の頃から」。牛飼いになった頃は、淡路椚座牛ではなくいち事業者として牛を肥育し出荷していました。

「当時、大阪の市場に肉を売りにいくと、市場のバイヤーさんは『お客さんが淡路のお兄さんのお肉美味しいって言ってくれているよ』と言うけど、あくまでもお肉ってお肉屋さんの評価なんだよね」

お客さんは、「あそこのお肉屋さんのお肉が美味しい」という評価で「どこの産地の誰々のお肉」ではありません。肉も魚もそれが一般的だけれど、「『淡路島のお兄ちゃんのお肉が美味しい』ではなかったから、『じゃあ自分で発信していこうかな』。というのが始まりだよね」と大造さん。

「それから自分で育ててA5ランクの肉ができた時、『他のA5ランクの和牛とは何が違うのか。どうしたらもっと納得のできる肉が作れるようになるのか』という発想になって。ストレスを与えて作る5等級の肉よりも、違う5等級の作り方をしたいと変わっていって」

和牛の最高峰とされるA5ランクの黒毛和牛も、地域や育て方はさまざま。肉の品質を求めて、システム化やストレスを与えた肥育方法をするところも。異なる肥育方法に舵をきり、オリジナルの淡路椚座牛を追求してきた道のりについて「人間って順番にステージを踏んでいくものでしょう」と語る大造さん。

「僕が20歳で牛飼いを始めて、すぐにA5ランクの牛なんかできないよね。牛にストレス与えてやっとA5ランクの肉ができる腕にならない限り、次のステージには進めない。『健康的で美味しいA5ランクの牛を作ろう』というのは、A5ランクを作れる人間じゃないと無理な発想だから。それは順番。今は自分で育てて肉を売って、ホテルやレストラン、一般のお客さんの評価が直接得られるから、発想も変わっていった。徐々に変化していったよね」

閃いたら、すぐ行動。
淡路島の立地だから、できる挑戦がある。

お兄さんとともに、約1000頭の牛を淡路島で育てている大造さん。肥育する牝牛も餌の素材も、九州から北海道まで全国津々浦々自らトラックで赴いては、現場で目利きすることを徹底しています。

「この仕事はチャレンジできるし、やりがいがあるよね。養鶏や乳牛は卵や牛乳の出来で毎日様子がわかるけど、牛は販売するまでのスパンが長いでしょう。2年弱かかる分、結果はすぐにわからない。僕にとってはそれが面白いし、試していくのが楽しいね。生産者として、想いは熱い方だと思う。自分の仕事が好きじゃないと、こんなことできないよね」

「閃いたら、すぐ挑戦するよ僕は」と大造さん。現場に赴き自分の目で見て判断する代わりに、自分が不在中でもスタッフがきちんと肥育できるよう、餌や飼育環境を簡潔に整える工夫しています。「簡潔になる分、牛を観察できる時間が増えて、観察力が豊かになるんだよ」。

いのちと向き合いながら、自然環境相手に、正攻法はありません。昨年は猛暑の影響で8月は雨が降らず、餌が食べられなかった牛も。そんな困難な時も諦めずに愛情を込めて肥育して、しんどい先、乗り越えられた時が楽しいと。「特に、安定的に質の良い肉ができた時にはダイレクトにやりがいを感じる」と言います。

そして、淡路島の立地も、大造さんの挑戦を後押ししています。

「島だけど、京阪神に近いのがいい。淡路島は兵庫県の中では生産地だけど、消費地の京阪神が近いから発信しやすいよね。九州や北海道の生産地だったら、こういう挑戦は僕にはできなかったと思う。ほかの淡路島の生産者もそうだけど、僕らはそういうのが得意だよね」

古来より「御食国」と呼ばれる淡路島。この土地の恵みを受けた素材を飼料に、自然豊かな環境で、徹底したこだわりと愛情を大いに受けて育った、味わい深い淡路椚座牛です。ぜひ一度、ご賞味ください。