ナチュレーゼ/嶋津由佳子さん

セトレハイランドヴィラ姫路でお出しする料理に欠かせないのが新鮮なお野菜。美味しいことはもちろん、つくる人たちの想いに惹かれて、素材を選んできました。今回ご紹介するのは、たつの市で無農薬・無化学肥料で野菜を育てるナチュレーゼの嶋津由佳子さん。「新鮮で、安心安全なお野菜を食べて、元気になってもらえたらいいなと野菜づくりを続けています」と、嶋津さん。野菜づくりをはじめたルーツからお話を伺いました。

香りも、味も、まったく別物。私もこんな野菜を育ててみたい。

「このあたりはすごく空が広くて、夕焼けもとってもきれいなんですよ」と、畑までの道のりを案内してくれたのが、ナチュレーゼの嶋津由佳子さん。ここは、兵庫県の南西部に位置するたつの市。一級河川・揖保川の下流域で、その恩恵を大きく受けた豊かな土地では、昔から水田や大豆などの栽培が盛んに行われてきました。嶋津さんはここで約10年、化学肥料や農薬の力を借りない野菜づくりを続けてこられました。

嶋津さんが農業に興味をもったのは13年前。会社員として夢中で働いていた20代、体調を崩したことをきっかけに、休日は自然のある場所へ出かけるようになりました。そんなとき出会ったのが「自然農」でした。

「自然農では野菜のもつ力や、自然の力を信じて、ありのままの姿で野菜が育てられていました。はじめて食べさせてもらった人参の味は忘れられません。こんなに味がするのかってびっくりしました。それまではスーパーで買った人参しか食べたことがなくて。香りも、味も、まったく別物でした。すごく大きな衝撃をうけて、自分でも生物多様性のある肥沃な土壌をつくって、こんな野菜を育ててみたい。そんな気持ちが芽生えたんです」。

食べると元気になれる、みんなが安心安全な野菜を。

地元の姫路に戻った嶋津さん、旦那さまと出会って今の場所で野菜づくりをはじめました。「最初はなかなか思うように進まなくて大変でした。野菜づくりも、野菜の販売も、イチからの勉強です。畑仕事をしながら、スーパーの野菜売り場や、種をまき苗を育てる、育苗屋さんで働きました。」

畑では、土作りから、種まき、収穫まで、すべてが初めて。種を苗に育てるのも一苦労でした。「野菜のもつ力を信じて、なるべく自然な方法で育てたい。だから苦労することも多かったです。でもやっぱり、初めて食べた人参のことが忘れられなくて。食べると力が湧いてくる、元気になれる野菜を育てたいって、そんな想いで続けてきました。小さなスペースからはじめた畑、10年経って少しずつ広げることができて、なんとかここまでくることができました」。

いまでは、年間80種類の野菜を育てる嶋津さん。セトレハイランドヴィラでも、多品目な野菜を仕入れさせてもらっています。

「セトレさんとお仕事をさせてもらうようになって、料理人さんはこんなお野菜が気になるんだなぁって勉強させていただくことがあります。たとえばスープセロリ。シェフの西山さんが葉っぱの部分だけではなくて根っこの香りがいいんですよ。って教えてくださったことがあって。食べてみたら思った以上に風味があって驚きました。こうしたやりとりがとても新鮮で、楽しく野菜をお届けさせてもらっています」。

この土地に根付いてきた、品種を守り、育てていく。

嶋津さんは播磨地域の在来種の野菜も多く育てられています。在来種は長い時間をかけて、その土地の風土や気候に寄り添い根付いてきた品種。採取した種は次世代へとつないでいくことができます。

嶋津さんが育てる在来種の中でも、この土地ならではといえるのが「野瀬のかんぴょう」です。かんぴょうはウリ科の夕顔が原料となります。嶋津さんが育てているのは、相生市野瀬地区で採種を続けてこられた夕顔で、ほのかに甘みがあるのが特徴です。

大阪のお寿司屋さんで多く取り扱われてきた名産品でしたが、食生活が変化するに伴って、栽培する農家さんもぐんと減ってしまっていたのだそうです。

「ひょうごの在来種保存会の会長さんが、この野瀬のかんぴょうはなんとか残していきたいなっておっしゃってて。私が畑をさせてもらってるこのあたりでも、昔は作っていたという話を耳にしたんです。すると家からかんぴょうを加工する、機械も出てきて。よし、これはやってみよう!って。種を譲り受けて、栽培をはじめました」。

春にまいた夕顔の実が実るのが初夏。バレーボールほどの大きさに実った洋ナシ型の実を薄く剥いで、乾燥させてかんぴょうに仕上げます。嶋津さんは、この栽培した夕顔をかんぴょうとして加工して、販売も手がけられています。

こうして、たつの市に根を下ろしながら野菜づくりを続ける嶋津さん。7月に予定されている、SETRE OPEN KITCHENでは「夏野菜の冷製炊合せ」をテーマに、嶋津さんのお野菜を味わって頂く予定です。「その頃には夏野菜が実りの季節を迎えています。私の育てた野菜を料理していただくことも、みなさんにお目にかかれるのも、とっても楽しみです」。