姫路/兵庫県自然保護協会理事姫路支部長/山本弘さん

セトレハイランドヴィラ姫路では、新緑の季節に広峰山を散策し、山菜を味わう楽しみを毎年ご提案しています。そのガイドを、初回から務めてくださっているのが、兵庫県自然保護協会理事姫路市部長の山本弘さんです。熊本県阿蘇で育った山本さん。自然豊かな山や森のなかで、薬草や山菜に詳しい、おばあさまと暮らしていたのだそうです。おばあさまは、人に頼まれては山へ出かけて山の恵みを採集し、役立てていたのだとか。そんな暮らしのなかで自然と身についた、山を慈しむ想いや、楽しみ方を人々に伝え続けています。

新緑に輝く山の緑が、私たちに教えてくれること。

セトレハイランドヴィラ姫路が建つ山は、祇園祭ゆかりの神社“広峯神社”が頂上にあります。かつて都を襲った疫病を治めようと、祇園祭で有名な八坂神社に、広峯神社の神を移したとされており、祇園祭のルーツが広峯にあるのだとか。

そんな歴史を感じさせる山を、自然公園指導員の山本さんと歩きながらお話を伺いました。幼少期、熊本県阿蘇でおばあさまと暮らしていた山本さん。山に入って、薬草や山菜を活かし暮らすおばあさまの傍らで、自然に山を愛する心が芽生えたのだと言います。

「30歳の頃に関西へやってきました。本職は大工。阿蘇を離れても、やっぱり僕は山が好きで、仕事の合間をぬっては山を出かけてあちこちを歩いていました。阿蘇とこちらでは樹々の呼び方が違う。最初は自分の知っている名前と一致しなくて大変でした。図鑑片手にいろんな木や森を見て回ったんですよ」と、山本さん。

一緒に歩いていると、食べられる山菜はもちろん、足元に生える花々や樹々の名前や鳥の鳴き声から名前まで、自然のことならなんでも教えてくれる山本さん。
「ほら、これはグミの実。知ってるかな、酸っぱくって美味しいんだ。鳥たちも大好きな実だよ」。
こうして、ひとつひとつ教えてもらうことで、私たちも解像度が上がっていきます。さっきまで全部同じように見えていた森が、ひとつひとつ個性ある樹々の集まりだということが見えるようになるからです。
鳥だなぁと思っていたのがキツツキとわかるようになる。花だなぁと思っていたのがあけびの雌花とわかるようになる。素通りしていたものがひとつひとつわかるものになること。山を歩くことがどんどん楽しくなっていくのが感じられます。

みんなに、山の声を聞いてもらいたい。

新緑に磨かれた空気がキラキラと美しく、歩く山本さんを照らします。
「はい、これがコシアブラ。木の一番先端に咲く芽だけ採ります、胴部分の芽まで採ってしまうと枯れてしまうからね、採集するときはよくよく見てね。森の新しい芽は、たくさんとってはだめ。ひとつ目、ふたつ目、その次くらいまでは大丈夫だけど、それ以上になるとその木は死んでしまうからね」。
樹々が来年も芽吹き実をつけていくように、山菜を採取するコツをそっと教えてくれます。

「自然はよく見て触れること、匂いを嗅ぎ分け、実を味わう。ときには樹に耳を当てる、すると風の音が聞こえてくる。からだ全部使って感じて知っていくんだよ。とはいっても、まずはおいしいものからはじめればいい。まずは山菜を入り口に、山を知ってもらえればいいかな。樹を知ると森がわかる、森がわかれば山がみえてくる。山を通して自然に興味を持ってもらって、ひいてはそれが環境を守ることにつながればいいなと思っています」。まるで山の番人のような山本さんのお話に、思わず聞き入ります。

大好きな山を通じて、自然や人を慈しむ。

お話の端々に、自然や人を慈しむ想いが感じられる山本さん。どうしてこんなにも、山のことを惜しみなく教えてくれるのでしょうか。
「祖母がね、人のためにずっと薬草や山菜を採ってる人でした。僕にもずっと“人の役に立つ人になるんだよ”って教えてくれたんですよね。大好きな山のことを、自分の知っていること、それがみなさんに役立ててもらえるのが嬉しいんです」。
幼少期におばあさまと暮らした日々が、山本さんの中に今も生きていることがわかります。

「山と少し離れてしまった時期もあったんです。でも子どもたちと自然の中で遊ぶようになって、祖母に教えてもらったことを少しずつ思い出したんですよね。やっぱり山の中で教えてもらったことというのはずっと僕のなかに生き続けていて、大切にしていきたいことだってわかって。そして、祖母が教えてくれたことが、少しでも未来に残せたらいいなって。山や森をまた歩くようになりました」。
70歳を超えてもなお、まるで山のように静かで力強く目を輝かせる山本さん。最後に、これから挑戦してみたいことも聞かせてくれました。
「また、日本中旅ができるようになったら、南限や北限の樹々を見に行ってみたい。そんな夢もあります。さらに山のことを知り、みなさんに伝えながら歩きたい。山の声に耳をすまして、山を好きになってもらえたら。少しずつ、みんなが興味を持ってくれたら、そんなに嬉しいことってないですよね」。