“奈良を紐解き、奈良を創るホテル”をコンセプトに2018年12月にオープンした「セトレならまち」。

およそ1300年前にシルクロードの東の終着点として、様々な文化が到来し隆盛を極めた、“日本のはじまりの地”としての奈良。

中でも「匠室(マイスタールーム)」は、奈良の職人の技術と想いによって紡がれる過去と未来を、これまでとこれからの日本を感じ取れる場所となっています。

自然の素材を活かした設計


匠室は、日本の木造の伝統技術を継承した「三方格子」という、釘や金具を一切使わない構造で作られた茶室です。

屋根には杉皮葺きが。山で立木を倒し、杉皮を剥き山で積み上げ、自然に熱を持たせて防虫処理をし、その後山から出材して加工をし、杉皮という商材になったものを使用しています。

林業の歴史が古い吉野で江戸時代から材木に携わる徳田銘木さんの木材を使用し、ほとんど手を加えることなく自然の素材そのままを活かしており、自然の趣を感じてもらえればとの想いが込められています。

変化を楽しむ土壁


匠室の奥に見えるこちらの土壁は、創業約80年、住宅やお寺・神社の左官工事に携わる井上左官工業の井上雄二さんによるもの。

ひび割れを防ぐとともに土壁がもつ本来の温かみを表現できるよう、藁を入れた伝統的な土壁を再現。
荒々しさよりも引き締まった感じを引き出すため、土壁を金鏝(かなごて)で何度も押さえてツルッと仕上げています。

金鏝の鉄分が移った土壁は、何年か経つと茶色のサビが出てきます。
土壁から出てくる錆を意匠的に表現した壁はまだこれからも変化するので、来るたびに変わる土壁を楽しみにしてもらえればと語る井上さん。

館内には他にも様々な技法を取り入れた壁があるため、違いを楽しんでいただければと思います。

昔ながらの手漉き和紙


障子には江戸時代末期の創業から6代目となる福西和紙本舗・福西正行さんの手漉き和紙が。

和紙は普通真っ白なものですが、福西和紙本舗さんの和紙は黄色がかった白さが特徴であり、何年経っても色が変わりません。
より強い和紙にするため、楮(こうぞ)という和紙の原料を何度も叩いて繊維を細くし、それを漉いて一枚ずつ板に貼って天日干ししていきます。

昔ながらの紙を再現したければ昔ながらのやり方でやらなければと語る福西さん。

柔らかい色味の和紙から零れる穏やかな日差しが、匠室の雰囲気をより一層和やかなものにしてくれます。

畳発祥の地、奈良


奈良が畳発祥の地とされていることはご存じでしょうか。
平城京時代に聖武天皇がベッドとして使用された「御床畳」が正倉院に残っており、最古の畳だと言われています。

そんな奈良の地で、江戸時代中期から約300年の歴史を持つ浜田畳店・浜田賢司さんの畳を使用している匠室。
最近の畳は全て機械縫いで作られますが、より丁寧に感触良く美しく見せるためにこちらの畳は90%が手縫いとなっています。
短い藺草を使い真ん中で継いだ「中継ぎ表」という、質感も良く希少価値のある特殊な畳表となっており、畳の真ん中に見える線が手作業の証です。

畳はどんどん日本から消えていく、離れていく時代だが、そういう時代だからこそ本物の畳を残していくべきだ、という浜田さんの想いが込められています。

吉野杉×曲線美


美しい曲線が特徴の座椅子。
セトレならまちの木工家具を手掛けるのはstudio jigの平井健太さん。エントランスやカウンター席でも作品に触れていただけます。

「フリーフォームラミネーション」という三次曲線の自由な造形を描ける技術により、有機的な曲線を描いて構成された家具が特徴的です。
吉野杉の薄い端板を何枚も重ね、ミルフィーユのように接着しプレスしながら曲げ、一晩二晩経ってプレスを外し、削り込んで磨き上げるという緻密な作業によってできあがります。

節があると折れてしまうため曲げられないが、緻密な年輪と節の少なさが吉野杉の良さだと平井さんは語ります。

匠室での過ごし


そんな職人さんたちの想いと伝統技術の詰まった匠室、展示されているだけかと思いきや、実はご宿泊のお客様に自由に使っていただける空間なんです!

ラウンジの飲み物やお菓子を持ち込んで本を読みながらゆっくりくつろいだり、ボードゲームを楽しんだりと思い思いに過ごすお客様もいるんだそう。
イベントとしては月に2回雅楽体験も開催されています。

奈良に受け継がれてきた伝統に触れ、奈良のこれからに思いを馳せていただける、そんなお時間が生まれる空間になればと思います。