「セトレマリーナびわ湖」は、琵琶湖を取り巻く自然との共生を目指して2013年9月1日にオープンしました。設計は自然環境と呼応する建築をつくる芦澤竜一先生。

滋賀の森が育む木や土を活かし、湖から陸地への移行帯であるエコトーンを再生し、その一部となり得る建築として設計されました。

地域に宿る歴史や技術、人々を含めた生命のつながりを再構築するとともに、土、光、風などの自然現象との接点を設けることで、ホテルに集う人々に地域固有の要素を感じ取っていただきたいという願いが込められています。

エコトーンの一部となるような設計

かつては琵琶湖の周りに大小40個ほどの内湖が存在していたそう。ほとんどが干拓されてしまったその原風景を取り戻すべく、セトレマリーナびわ湖の目の前には2つの内湖が作られ、地域特有の生態が宿るビオトープ環境の計画を進めています。

また、屋上部分では地域の生態が宿るように全面緑化を行い、敷地内では植樹を通して今後も続いていく自然生態の物語が皆様をお待ちしております。

ちなみに、開業から10年の月日が流れ、ビオトープの中には以前は見られなかった生き物たちが戻って来ているんだとか…!セトレマリーナびわ湖に訪れた際にはぜひ覗いてみてくださいね。

琵琶湖畔の土を使った建築

レストランとバンケットルームの受付後ろには大津壁が。
コテで何度も押さえた緻密な肌が特徴であり、難しい技術で作られる貴重な壁に触れていただけます。

また、随所で見られる版築は、枠型に土を入れて押し固める作業を繰り返す伝統的な技法であり、法隆寺などでも使われています。外壁や3F客室などには、なんと琵琶湖のヨシが使用されているものも。

琵琶湖畔の土をふんだんに利用することで、現代建築における新たな可能性を追求する。非均質で弱い素材を敢えて用いることで、今後人々が建築に関わり続ける余地を残す。ここにも芦澤先生の想いがしっかりと込められています。

凸凹とした立体感が特徴のホテルの外壁・ドイツ壁は、実はスタッフも開業時一緒に塗らせていただいたんですよ。

自然の恩恵を最大限活用

琵琶湖から吹く穏やかな風が室内や廊下を通り抜けるような設計。
客室の壁をそれぞれ角度を変えて設置することで、部屋ごとに風の流れを変化させています。ドアの代わりに客室入り口にある杉の格子戸を閉めると、琵琶湖から吹き抜ける風をお部屋の中に通すことも。

また、屋上緑化や計算された軒の角度により太陽光を巧みに操り、土壁・版築による蓄熱・調湿効果も併せて機械空調に頼り切らない設計となっています。

季節によって移ろいゆく風に身をゆだねて、慌ただしい日常を忘れて、ゆったり流れるお時間をお過ごしいただけますように。

「風」と「木」を感じるミュージックホール

永源寺地区から届いた杉の木で作られたチャペルでは、木の温もりや琵琶湖のさざなみを全身で感じていただけます。

また、こちらのチャペルは「ミュージックホール」と名付けられており、名前の由来は天井に設置されたエオリアンハープ。風神アイオロスが風を吹くと音を奏でるというギリシア神話に登場するこの弦楽器は、風の速さや向きによって変化する音色を楽しむとともに、音を通じて琵琶湖から吹く「風」をしっかりと感じ取ってもらう狙いがあります。

様々な条件が必要なので毎日聞けるわけではありませんが、それでこそ“自然との共生”ではないでしょうか。特に冬の山から吹き降ろす強い風など条件が重なると、素敵なハーモニーをお楽しみいただけるかもしれません。