淡路島/平岡農園/平岡まきさん

淡路島で60年以上にわたり、みかん・レモン農家として農業を営む平岡さんご一家。おじいちゃんがはじめたみかん農園は、現在3家族で栽培・販売を続けられています。セトレ神戸・舞子では、数年前から平岡農園さんのレモンなどの柑橘類をお預かりして、レストランを通してお客さまにつないできました。今回は、園主の奥様である平岡まきさんを訪ね、お話を伺いました。

電気もガスも水もない、

じいちゃんがはじめた開拓地。

淡路島の中東部、洲本市の中心街から少し山にはいると『平岡農園』の大きな看板が目に入ります。60年以上に渡って、この土地でみかんとレモンの栽培を続けてこられた平岡さん。取材に伺ったのは夏、9月末からはじまる収穫に向けて準備が進んでいる頃でした。

笑顔で迎えてくれたのは平岡農園の平岡まきさん。この平岡農園に40年以上前に嫁いできたのだそうです。

「私たちの農園は、先代が漁師から陸に上がってはじめたものなんです。戦後に漁師として活躍していたじいちゃんは漁獲量の減少を身にしみて感じていたようで。『漁師をやめて、農家になるぞ!』って。この山を買ってみかん農園をはじめました」。

今でこそ、市内からも便利に行き来できますが、先代とまきさんの旦那さま家族が4人で引っ越してきた頃は電気もガスもなにも通ってなかったそう。

「まさに開拓地なんですよ。お風呂に入るのも一苦労で、下から水をくんできて大変だったって聞いてます」。

少しずつ隣接した土地を農地として広げ、収穫量も増えてきた頃、淡路島の老舗旅館からお客さまむけにみかん狩りをさせてもらえないかという相談が飛び込んできました。

「当時はどこも収穫体験なんかやってなくって、大変喜ばれたんです。観光農園を開くかどうか、家族みんなで悩みました。ですが、旅館のご主人の勧めもあって、農家としての誇りを持ち、観光農園としてお客さまにこの場所を開くことを、家族みんなできめました。リピーターのお客さまも大変多く、おかげさまで60年続けてこられました」。

みかんとレモン。
すみずみまで、家族の力で。

「最初はみかんだけだったんです。私の妹から『無農薬でレモンやってみたら?』と言われたのがきっかけで20年前にレモンをはじめました。最初は完全無農薬で8本のレモンの木を育ててみました。この花がね、実になるんですけど小さな虫がたくさんいて。虫の足跡が傷になるんです。無農薬だとこの虫を水で洗い流すんです。ひたすら世話をやいて笑。そしたら、1本の木から100個以上のレモンが獲れたんですよ。すんごくうれしかった!」。

セトレの料理長たちからも評価の高い平岡さんのレモン。皮まで安心して味わえる上、香りが格段に違うと評判です。

「ただ、たくさん栽培していくには無農薬では手がかかりすぎました。この方法は難しいなということになって、今はワックスと防腐剤は一切使わず、減農薬。収穫前の薬の散布はしていません。レモンは水がたくさんいる子。あまり水気がないと苦味が強くなっちゃうんですよね」。

収穫前の夏は、この水やりと樹の剪定、そしてトゲ取りに追われるのだそうです。

「レモンは葉っぱごとにトゲがあるんです。そのトゲが果実や葉を傷つけて、病気の原因になってしまうんですよ。栽培をはじめた頃、どうしようかと悩んでいたら『トゲ全部切ったらええやんか』とじいちゃんが名案を出してくれました。なので平岡農園のレモンの木はすべてトゲを手作業でとっています」。

現在、3ヘクタールと準備中の畑が1ヘクタール。そのすべてのレモンの樹を剪定するというから驚きを隠せません。広くとも行き届いた手入れがあってこそ。素晴らしい品質のレモンを届けてくださることに、改めて感謝の気持ちでいっぱいになります。

親から子、子から孫へ。
受け継がれる開拓精神。

まきさんの旦那さん家族が4人ではじめた平岡農園。いまでは、まきさん夫婦と、弟さんとその家族の、3家族が農園を担っています。

60年以上に渡って体験農園をしてきたこともあって、2世代にわたって農園に訪れてくれるお客さまもいるのだとか。

「私たちも家族が増えて、孫ができて。それと同じようにお客さまも、子どもの頃にきてたんです!って言ってお子さんと一緒に来てくださる方がいるんですよ。長くやってるとそういうことが多くなってきて、とても感慨深い気持ちですね」とまきさん。

最後に、これから挑戦してみたいことを伺ってみました。

「みかんに比べたら、レモンはまだ20年しかやってないんです。いろんなところに視察に行って、勉強して、やっとここまできました。お父さんと日本一のレモン農家になろうね!って、いまの3ヘクタールにさらにもう1ヘクタール増やそうと、がんばっているところです。いろんな事情があってちょっとゆっくりとしたペースですが、レモン畑が少しでも広げられたらなって。実現できるかどうか、挑戦中です。まだまだお父さんと力をあわせてやっていけたらいいなって思っています」。

今年もまた、9月末からみかん・レモン狩りがスタートします。おじいさまがはじめられたころからずっと、平岡農園に受け継がれてきた開拓精神。家族の願いとともに、みかんやレモンの畑は、大きく広がってきました。今年も、強くあたたかな平岡さんたちの想いにふれようと、淡路島をたずねる人たちの笑顔が目に浮かびます。